//映画 1.//マディソン郡の橋/夕食前にお風呂でビール
海外旅行もできないし古い(とはいっても90年代の作品ですが)アメリカ映画でも観たいなぁ、ということで、『マディソン郡の橋』を初鑑賞いたしました。
『マディソン郡の橋』、一言でいえば「凝縮されたオトナの恋愛映画」。
大人の、というと聞こえはいいですが、もっと端的にいえば不倫映画ですね…。
賛否はあるかと思いますが、それはさておき。
この映画のオトナ感を増し増しにしているさまざまな要素を分解していくと
飲酒シーンが散見されることにも起因していると言えるかもしれません。
私もワインに関する仕事をしていたこともあって、お酒は大好物です。
今回はお酒好きの視点から見た『マディソン郡の橋』を、
劇中の印象的な飲酒シーンをピックアップしながら振り返っていきます。
今宵をくつろぐ、晩酌のお供にでも、お読みいただければ幸いです。
1.Prologue あらすじ
1989年の冬、母の葬儀のために集まった長男のマイケル(ヴィクター・スレザック)と妹のキャロリン(アニー・コーリー)が、彼女の遺書とノートを読み始める場面からストーリーがはじまる。「火葬にしてローズマン・ブリッジから灰を撒いてほしい」というもので、平凡だと思われていた母親の秘められた恋を知ることになる。
1965年の秋。小さな農場の主婦フランチェスカ・ジョンソン(メリル・ストリープ)は、結婚15年目で単調な日々を送っていた。ある日、夫リチャードと二人の子供たちが子牛の品評会のため隣州へ出かけ、彼女は4日間、一人きりで過ごすこととなる。
そこへ一人の男性が現れ、道を尋ねる。彼はウィンターセットに点在するカバードブリッジのひとつ、ローズマン橋を撮りにやってきたナショナルジオグラフィックのカメラマン、ロバート・キンケイド(クリント・イーストウッド)であった。彼の魅力に惹かれたフランチェスカは、彼を夕食に招待する。そこから距離が縮まり、二人はデートの末、許されないと知りつつ恋に落ち、そのまま結ばれる。
最後の夜、「一緒に来てくれ」と誘うロバートに、フランチェスカは荷物をまとめるが、家族を思うその表情を見たロバートは、一人で去っていった。
数日後、リチャードと共に街に出かけたフランチェスカは、雨の中、彼女を見つめ立ち尽くすロバートの姿を見る。フランチェスカは乗っていた車のドアに手をかけ、彼の元へ行こうとするが、それ以上はできなかった。
1979年、リチャードが死去。フランチェスカはロバートに連絡を取ろうとするが、消息はわからなかった。何年か後に、ロバートの弁護士から遺品が届く。そこには、手紙やフランチェスカが彼に手渡したネックレスとともに『永遠の4日間』という写真集が入っていた。
フランチェスカのノートには「人生の全てを家族に捧げた。せめて残りの身は彼に捧げたい」という遺志が記されていた。兄妹はようやくその遺志を理解する。後日、2人の手によって、彼女の遺灰は、ロバートの遺灰と同様、ローズマン橋の上から撒かれた。
2.Scene "お酒を楽しむ" 夕食前にお風呂でビール
さて、今回味わいたいのは、出会って二日目の夕方のシーン。
シャワーを浴びたロバートが、1階のキッチンでフランチェスカと話す短いシーンです。
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夕食の準備をする、フランチェスカ・ジョンソン役のメリル・ストリープ。
ロバート・キンケイド役のクリント・イーストウッドは、2階のバス・ルームでシャワーをしたあとで、階段を降りてキッチンへ。
「何か手伝おうか?(Can I help?)」というロバートは、グレーのTシャツからオフ・ホワイトのざっくりとしたコットン・シャツに着替えている。
汗を流し、さっぱりした様子である。
「大丈夫よ、用意はできているの(No,I've got everything under control.)」と、フランチェスカはカボチャの料理をオーブンへ入れながら応える。
一瞬映し出されるそレは、カボチャの中身を丸ごと切り抜き、詰め物をした料理のよう。
「ご飯の前に、私もお風呂で汗を流すわ(I'm just going to go,clean myself up a bit.I'm going to take a baty)」とフランチェスカ。
それを聞いたロバートは、
「テーブルを整えておくよ(What happens if I set the table?How about that?)」と言って、素早く冷蔵庫を開けにかかる。
「いいわ、お願い(Oh. That's fine. Sure. Good.)」と、フランチェスカ。
冷蔵庫を開けたロバートは、さっとビールの小瓶を取り出し、
「風呂でビールはどう?(Would you like a beer for your bath?)」と言って栓を抜き、フランチェスカに便を渡す。
ビールが開く、小気味好い音が鳴る。
冷蔵庫から出されたばかりのビール。
「すてき(Yeah. That's nice.)」と少女のように目を輝かせるフランチェスカ。
「食事は30分後に(Dinner will be ready in half an hour.)」
フランチェスカはそう言って、戸棚からビールのグラスを取り出し、機嫌良く微笑みキッチンを去る。
何も答えず(というか言葉にならない、というような幸福そうな表情で)、柔らかな笑みを浮かべフランチェスカを見送るロバート。
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ここでこのシーンは終わる。
ほんの2分か、3分の短い一幕である。
次のシーンでは、ロバートが使ったあとの2階のバス・ルームでくつろぐフランチェスカが映し出される。
浴槽の脇のスツールに、ロバートから受け取ったビールのグラスを置いて。
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ディナーの前の、まだ明るい時間。
二人の視線の混ざり合い。アルコールの登場。
この僅かな会話のうちに、画面は少しずつ官能性を増していく。
(大袈裟に解釈すると、)ロバートが「お風呂でどうぞ」と手渡した1本のビールは、その後の物語の展開を大きく変えてしまった(ように思える)。
恋心が疼き始めている最中、さすらいの旅するカメラマンから渡された夕食前のビール。
フランチェスカの心をほどいてく仄かな酔い。
その証拠にこの夜、二人は夕食の席でさらに酒を交わし、一線を越える。
3.Epilogue ところで
ところで(全然話が変わりますが)このやりとりが行われているのはジャクソン家のキッチンですが、
映画を観ててもアメリカの、特に郊外の戸建ては本当に大きいですよね。
ジャクソン家がそうであるかは劇中からは読み取れませんが、
おそらくこの家でも、1階と2階どちらにもバス・ルームがあるのでしょう。
このシーンのスタートは、2階から風呂上がり然としたクリント・イーストウッドが、なんとなくやってくるところから始まります。
異国感漂う構図。
あぁ、海外旅行をしたい…(増すばかり)
一方で、バス・ルームが2つ以上あるのはアメリカン・スタンダードみたいですね。
誰が入っているとか気にしないで、気が向いたときにひと風呂浴びれるし、
お客が来ても困らない点はいい。
掃除は大変そうだけれど。
1つの家に風呂が2つあるというのもさることながら、
キッチンとダイニングのスペースも広い。
そして機能的です。
備え付けのオーブンに、4つ口のコンロ。
奥に見える、ストック・ルーム。
ウォール・シェルフに並べられたたくさんの保存瓶。
さまざまな調味料たち。
キッチンのデザインはカントリー風で、壁紙はイエロー調の花柄。
中央には同じくイエローの、ダイニング・テーブルとダイニング・チェアが置かれ、
天井からは小さなペンダント・ライトが吊るされています。
このペンダント・ライトは劇中、夜のシーンで灯りがともるとまた素敵です。
空間を、そして二人の表情を温かく照らしてくれ、画面に良い味が出ます。
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それにしても二人のやりとりは息が合っていて、テンポがいいですよね。
シーンごとにリズムがあります。
『マディソン郡の橋』は不倫映画ですが、
観ていて嫌にならないというか観ていられるというか、そういう気持ちになるのには、
さまざまな要素があるとは思いますが、
役者さんたちが紡ぎ出す息の合ったいいリズム感にも起因している、
というのも一理あるでしょうね。
4.End まとめ
今回は二人の関係性の発展を思わせるシーンでの、ビールの登場をピックアップしてみました。
入浴中の飲酒は、実際のところは良いのか悪いのか、今回は議論しませんが、
『夕食前にお風呂でビール』なんだか素敵ですね。
メリル・ストリープも艶やかで美しい。
お風呂でないにしても、明るいうちから飲むビールは文句なしに美味しい。
開放感がありますよね。
昼間の緊張を解きはなっていくような。
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ところで、撮影が行われたジョンソン家は、特設セットで、アイオワ州マディソン郡のウィンター・セットに今でも残されているそうですね。
2003年の放火被害を受け、現在は一般公開はされてはいないものの。
撮影はそこで、延べ42日間という、短い日程のなかで行われました。
アイオワ州マディソン郡ウィンター・セット。いつか行ってみたい。
それでは。